とうふのホルモン

ホルモンのままに。主成分はエッセイ。

「いい子」を辞める、それでも先輩を嫌いになれないって気づいてしまった

ユキさんが夢に出てきた。辞めた会社の1つ上の先輩で、あらゆる面でわたしと正反対の人。

 

わたしが全然飲めないお酒を、ユキさんはがぶがぶ楽しそうに飲む。

明るいこと、楽しいことがとにかく好きで、唐突に好きな歌を口ずさみ始めたりする。

さりげなく上の人を立てるけど、時々おっちょこちょいで、そのおっちょこちょいも愛されている。

じっくり1つのことを考えるのは苦手で、でも直感が冴え渡っていて賢い。

いいことも悪いことも、感じたままに即座に言葉にする。

 

とにかくあらゆることにおいて、わたしに苦手なことがユキさんには得意で、どちらかといえばユキさんが苦手なことがむしろわたしは好きだった。そんなユキさんをわたしはある程度理解できていたと思うし、自分にできない数々のことをやってのけるユキさんを、「すごい!」と思っていた。

けれど、奔放で無邪気なユキさんの方はというと、自分に出来ることはほかの人も出来て当たり前、それができない人のことは、ほとんど全く理解できないみたいだった。

 

だからユキさんのことは、すごいと思うし尊敬はしていたけど、正直苦手だった。

とはいえ、普段はあまり一緒に仕事することがなかったから、そういう距離感でいる分には全く問題はなかった。

 

しかし、タイミングが悪かった。わたしが、立て続けに無理をしてしまって、その無理が仕事に影響し始めていたタイミングで、ちょうどユキさんと一緒なチームになる仕事が来てしまった。

 

「そんなこともできないの?ちょっとやばくない?」

悪気のないユキさんの素直な言葉に、わたしは一切何も、素直に、軽快に打ち返すことはできなかった。弾力のない柔らかいスポンジみたいに、ぶすり、と突き刺さった。

「すみません。わたしどうしても苦手みたいで、できないんです」「具体的に、どういうところを意識してるか、教えてもらえませんか?」

「普通にやってたら、だんだんできるようになることだよ。普段適当にやってるからいつまでもできるようにならないんじゃない?遅すぎるとは思うけど、今からでも頑張らないとだめだよ」

ユキさんのせいにしたいわけではない。けれど、これで、わたしをかろうじて保っていたプライドのつっかえ棒がぽっきり折れてしまって、そこからはあっという間に崩れてしまった。

 

仕事を辞めたあと、大抵のことは、あとで反省して、「こうすればよかった」「こう言えばよかった」と正解を思いつくことができたのだけれど、ユキさんのこのときの言葉にかんしては、未だに正解がわからない。「すみません」と口では謝りつつ、「何クソ!なんもわかってないくせに!ばーか!」って、心では反発していればよかったのかな、と思いつつ、いやでもそもそもわたしがちゃんとできていることだけが正解で、できない時点で何を言ってもダメなのだ、という気がしてくる。

 

わかっている。

別に、ユキさん一人にどう思われたって、どうでもいいじゃないか。ユキさんが何を言おうと、自分ができることを精一杯やっていた、サボってなんかいなかった、と自負しているなら、それでいい。それをわかってもいないのに、わかろうともしてくれていないのに、「やばい」なんて言うユキさんなんか、大嫌いだ!少なくとも心の中ではそう思っていればいい。

わかっているのに。

 

ユキさんが夢に出てきた次の日、わたしはまた眠れなくなってしまった。眠れなくなったわたしは、無意識に、彼に訊いていた。

「ねえ、わたし、いい子?」

甘え、なのだと思う。わたしのことをわかってほしい。理解してほしい。心細かった。悪い子じゃないんです、「いい子」なんです、どうか、わかって…。さもなくば、息が詰まっておかしくなってしまいそうな気がする。

 

そうしてユキさんのことが頭から離れず、ぐるぐると考えるうち、だんだん気づいてきてしまった。

 

わたしは、もう「いい子」を演じたくはない。

でもその代わり、素のまま、ありのままで、「できる人」でありたい。わたしだって、できることならば。ユキさんのように。そう思っている。できもしないのに、そんなことを望んでしまっている。

 

ユキさんを嫌いになれたら楽なのに、嫌いになれないのは、そこなのだ。

「いい子」の衣を脱ぐだけじゃ、まだ足りない。

「できる人」になりたい。この思いは、プライドは、どうしたら捨てられるのだろう。

 

 

苦しい、けど大丈夫、気づいた分、これは前進のはずなのだ。

 

 

■その後思ったこと

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