とうふのホルモン

ホルモンのままに。主成分はエッセイ。

「プライド?捨てなくていいんじゃない?」

逃げるように仕事を辞めると決めたわたしを、母が旅行に誘ってくれた。「行きたいところ、ある?特にないなら、お母さん行きたいところがあるんやけど」と母が引っ張っていってくれたのは、長野県・戸隠の、小さいお土産屋さんだ。

 

初めて乗る北陸新幹線長野駅で下車して、ローカルなバスに乗り換えて1時間ほど山道を登っていったところ。アクセスは不便だけれど、神社が有名らしく、平日にも関わらず神社近くの蕎麦屋さんには行列ができていた。(実際神社も蕎麦もすばらしかった。)

 

母が行きたがったのは、その有名な神社でも、蕎麦屋さんでもなく、1軒の小さなお土産屋さんだ。

 

聞けば、そのお店には、変なパワーを持ってるおじさんがいて、数年前に母が友達数人とバスツアーで戸隠神社を訪れたとき、いわゆるスピリチュアルな不思議体験をしたらしい。わたしはそういういわゆるスピリチュアルなことは、信用していないわけじゃない、けど、ある程度信用しているからこそ、自分のあずかり知らぬ領域だからこそ怖い・近寄りたくないと思うタチだ。

けど、普段はそういうのをあまり信じない母が、そのとき持ち帰っていたチラシを綺麗に取っておいていて、「その人に会ったら、きっと元気をもらえそうな気がする」と言うから、「こういうときでもないと行かないんじゃない?」と、気持ち半分で行くことにした。(一方、過保護なところのある母ははりきっていて、そのおじさんに話を聞きたいとアポまで取ってくれていた。)

 

バスを降りて、蕎麦を食べて、(神社は一旦置いておいて、)事前に伝えていた時間より少し早いけれど、この旅の目的のお土産屋さんに入った。狭い店内、レジにいるあの人がそうだろうとすぐわかった。白髪まじりのふさふさの髪の毛に、貫禄、でもハリのある肌。年齢不詳のおじさん。

 

「あの…先日お電話した村上です」緊張して人見知りするわたしたちを、軽快で止まらないおしゃべりで和ませてくれた。

ホンモノの忍者だということ。ホンモノだから、骨折をしてる回数などおちおち数えていられないということ。未来のことを見通せること。それからその人の考えてることはなんでも見えてしまうということ。

 

どこまで本当なのかよくわからない。けれど、このおじさんはすごい、と思った。本当だとしたら勿論すごいのだけれど、例えウソだったとしても、話のなかの世界観に矛盾がないこと。そうしたことを、自分自身をまず騙すというか、本当だと信じ込ませて、自信満々でいられるということ。あるいは、話の展開の仕方や、効果的なアイコンタクト、俗っぽい言葉で言えばプレゼン力。目の前の人が「この人の話はもしかしたら本当なのかもしれない」と思うほど、それらを徹底できるというならば、それはそれでかなりすごい。

 

わたしはこのおじさんだからこそ、どうしても聞きたいと思った。

 

「プライドってどうしたら捨てられますか」

 

もっとちゃんと、わたしの言うところのプライドという言葉の意味とか、なぜ捨てたいと思っているのかとか、ちゃんと説明しなくちゃ、と思ったのだけど、この問は、長いあいだあまりに大事に考えていた問だったから、この一言を発しただけで、自分の重大な秘密を話してしまったような感じがして、もうこれ以上言えなかった。

 

とにかく、このおじさんがこんなにも自信満々に、揺らがないのは、わたしが必死にしがみついている、このプライドなんていうくだらないもの、とっくに捨て去っているからなんだろうと思った。

 

けどおじさんはあっさりと一言目、こう切り返してきた。

「プライド?捨てなくていいんじゃない?」

 

―――

だいたいね、プライドって何だと思う?

わかんない?要はただのワガママなんだよ。

自分はこうなりたいとか、あれはしたくないとか、ね、ただのワガママなわけ。

 

でさ、聞くけどさ、あなたが捨てたいプライドってどんくらいの大きさなの?

えっ、そんくらい?そんなに小さいのに悩んでるの?

俺なんかね、すごいよ。地球におさまんない。宇宙サイズ。

そんくらいでっかいプライド持ってるよ。ワガママの塊。

俺は絶対誰にも負けないって思ってるもん。自分の思うとおりにするって。

 

あんたのなんてそこからしたら、本当たいしたことないよ。

もっとワガママでいいんじゃない?

捨てられないくせに、捨てたい捨てたいと思ってるからだめなんだよ。

ほんとはわかってるでしょ?ワガママになるのが大事だってこと。

だからあんたは大丈夫だよ。

―――

 

この話を、前の記事の、先輩の話を書いた後、あとになって思い出した。

「今苦しいのは、いい子を捨てられないからじゃない。プライドを捨てられないからなんだ」とわかった。わかった、と思ったあとで、そういえば、と思い出した。

 

そうか、プライド、捨てなくていいんだった。ワガママに求めてていいんだった。そう思ったら、現状は別に変わっちゃいないのだけれど、なぜかすーっと変な力が抜けて、楽になった。

 

書いてよかった。もやもやしたことを、書くのは恥ずかしいと思ったけど、書いてよかった。

今後わたしは、もやもやして、「プライドを捨てなきゃ」って答えになったとしたら、わたしはこの考え方を思い出せる。

でっかいでっかいプライド、恥じなくて結構。捨てなくて結構だ!

わたしはプライドを持ったまま、自分がほしいもの、行きたい方へ、ワガママに行けばいいのだ。

 

 

※おじさん勝手に書いてごめんなさい、書きたいから書いた。

 言ってる内容、ぴったり合ってないかもしれないそれもごめんなさい。