とうふのホルモン

ホルモンのままに。主成分はエッセイ。

ずるくて役に立つ関西弁【時々書きたくなるエッセイのようなもの】

大阪に住んでいた頃の話だ。地元から友人が遊びに来てくれたことがある。観光地を一緒にまわるのに、慣れない地下鉄で、スマホで乗換案内を調べながら「梅田に着いたら降りて、そのあとはJRに乗り換えやなあ」などと話していた(ちなみにこれは関西弁じゃなく、わたしの地元の方言で、イントネーションがちょっと違う)。

すると、あとひと駅というところで、肩をトントンと叩かれた。振り向くと、銀髪が上品な背の低いマダムがにこにことわたしをまっすぐ見ている。

「お姉ちゃんたち、梅田でJR乗り換えるんやったら、そのドアから出たら右の方行き。●●口っちゅう改札から出て、そのあと右のエスカレーター乗ったら、すぐやから!それが一番近道なんよ!」

「えっえっ、そうなんですか。あ、ありがとうございます!!」

「目の前の改札やないよ。右の方やからね!」

マダムは人懐っこく笑ったまま、ドアの方に向かっていく。よそ者のわたしたちの戸惑いを置いて、マダムを追うように、電車はまもなく梅田、とアナウンスしたところだった。

降りて実際その通りに歩いてみたら、意外なルートにもかかわらず、本当に近くて、友人と「すごい」と笑いあう。戸惑うし、照れくさいけど、だから同時に言い様もなくほっこりとあたたかくなった。

 

関西の人特有とも言えるあの距離の近さは、すごくすてきだと個人的に思う。

そしてわたしは思う。その近さを生み出す源泉は、関西弁なのではないか、と。

 

だって考えても見てください。さっきのマダムとの会話がもしこうだったら。

トントン。

「あの。梅田でJRに乗り換えるのでしたら、そちらのドアから出て右の方に行くといいですよ。●●口という改札から出て、そのあと右のエスカレーターに乗ると、すぐですから。それが一番近道です。」

……字面で見たら、まあまあありかもしれない。でも実際にこう言われているところを、音声で想像してみてほしい。あたたかみよりもまず違和感がすごい気がするのだけれど、どうだろうか。

 

 

大阪で勤めていた頃。「関西弁ってずるい!」と思ったことは、数知れない。

人事として学生や取引先様のお相手をするとき。あるいは、応援に出た現場で接客をするとき。あるいは、自分が消費者として、お店に行って店員さんに話しかけられるとき。

「○○なさいますか?」なんかより、ずっとずっと、「○○しはりますか?」のほうが、圧倒的にやりやすいのだ。

「とてもよくお似合いですね!」よりも、「やーん、お客さん、めっちゃ似合ってはります!」の方が、ずっとずっと気持ちがいいのだ。

あるいは書いてみたら言葉自体は同じでも、イントネーションだけでも全然違うと思う。「いいお天気ですね」って言うにしても、標準語と、関西弁のイントネーションとでは、受け取るときのあたたかさが全く、違うのだ。

 

もういっそ、あらゆるビジネス的会話はすべて、関西弁を標準にしたらいいのではないでしょうか?

 

まあそれは言い過ぎにしても、個人的に関西弁を習得したら、きっといろいろ楽だろうなあ、ぜひとも習得したいなあと思う。

思いつつも、習得の道のりは険しいなんてもんじゃない。なんてったって、よく噂に聞くには、関西の方は関西以外の人の使う「エセ関西弁」が「めっちゃ嫌!キッショ!」って思うらしいじゃないですか。そうなると、東京ですっかり標準語に染まった元某地方の民のとうふマインドは、そう思わせるの覚悟の上で使用する勇気は持ち合わせておらず、「ああじゃあわたしなんぞが使ってはダメだ!」と、険しいどころか足を踏み入れることもなく、習得の道を諦めてしまうのであります。

 

ああでもやっぱり、関西弁、マスターしてみたいなあ。「なんや中途半端な関西弁」というようなエセ関西弁も、英検みたいに、「あああいつはまだ3級レベルやな」とか、「おっ、なかなかやるやん準2級」みたいに、ならないかしら。関西の方、いかがでしょう。こんな壁つくりまくりチキンハートを崩していくのにも、きっと関西弁は役に立ちそうな気がしているのです。

 

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(関西(大阪)といえばたこ焼き、という安直さ。これまた怒られそう。笑)

 

そういえば、こんなこともあった。

親友から結婚式の招待状が届いた。嬉しくて嬉しくて、お祝いは何が喜ぶかな、服はどんなのを着ていこうかしら、と浮き足立っていた。そんなある日の仕事帰り、電車の中で、オケージョンワンピースの通販サイトを眺めてにやにやしていたら。

「お姉ちゃんさっきから、そんな地味な色はアカンわぁ」

前に立っていたオジサマが言った。ぎょっとしているわたしに構わず、オジサマは、「どれ見せてみぃ」と覗き込む。思わず画面を傾けると、

「こんなんとか、こんなんがええわぁ。せっかくかわいらしいんやから、華を添えてあげな!」

あれやこれ、と指をさす。そしてガハハと笑って、ちょうどそのとき止まった駅で、オジサマは降りていった。

人がまばらになった車内でわたしは、びっくりしてドキドキしたけど、思わずわたしも「ハハハ」と笑ってしまったのだった。なんでしょうね、この感じ。やっぱりずるいぞ、関西弁。